マングローブの自然を語るとき、カニの話題は欠かせません。カニはマングローブの林床に穴を開けて通気を良くしてくれるだけでなく、落ちた葉っぱをその場で食べたり、穴の中に運び込んで食べたりして分解を促進し、栄養分をリサイクルしてくれます。また落ち葉がないときは、泥をつまんでそのまま食べます。仙人は霞(かすみ)を食べるといいますが、泥を食べるとは、どんだけ高みにいるのだろうと感心するのは筆者だけでしょうか。関心を寄せる人が少ない生き物ですが、ケアンズはマングローブとカニを主役とするエコシステムを非常に簡単に、しかも間近に観察できる世界有数の場所です。

今回はカニの中でも、片方のハサミだけが大きいシオマネキに的を絞りましょう。シオマネキはハサミを振ってダンスをすることでも知られています。文献によるとオーストラリアでは19種類のシオマネキが記録されています。このうちケアンズでは9種類のシオマネキが記録されており、そのうちの7種類がケアンズの町から歩ける範囲で観察できます。

最初の場所はケアンズのエスプラネードです。ほとんどの人が目も向けずに通り過ぎますが、潮が低い時にじっくり見ると、なんと4種類のシオマネキが確認できます (運にもよる)。

Two-toned Fiddler Crabs Gelasimus vomeris

Two-toned Fiddler Crab Gelasimus vomeris はオーストラリア北東部からパプアニューギニア、 メラネシアに分布する南方系のシオマネキです。筆者の知る範囲では和名がありません。鮮やかなオレンジ色のハサミで比較的目立ちます。ハサミ先端の形状に特長があります。

Two-toned Fiddler Crabs Gelasimus vomeris
右下がメス

片方のハサミが大きい個体はオス、両方のハサミが小さいのがメスです。上の写真では、オス同士がもめ合っています。干潟をよく見るとカニが作った穴が無数にあります。

ヤエヤマシオマネキ Tubuca dussumieri

小さなシオマネキに交じって、ひときわ大きいものはヤエヤマシオマネキの可能性があります。どちらかというと数が少なく、単独で行動しているものを良く見かけます。

オキナワハクセンシオマネキ Austruca perplexa

北は奄美大島から南はオーストラリアまで広く分布するシオマネキです。非常に小さく、甲羅の幅は大きいもので2センチくらいかもしれません。名前の perplex には「人を惑わせる」という意味があります。この名前は腕を上げる前に震えるような動きをして人を惑わせるという意味から来ているようです。次の動画をご覧ください。 https://www.flickr.com/photos/134111689@N05/48120043521/in/dateposted/

もう一種類はリュウキュウシオマネキです。北は奄美大島、南はオーストラリア 北東海岸まで広く分布するカニで、オレンジ色の細長いハサミがよく目立ちます。一番最初に紹介した Gelasimus vomeris とよく似ていますが、ハサミの先端部を観察すると違いが分かるでしょう。特にマングローブ近くのドロドロしたところが好きです。

リュウキュウシオマネキ Tubuca coarctata

残念ながら、 リュウキュウシオマネキはエスプラネードから姿を消しつつあります。その理由は、ケアンズ市議会によるエスプラネードの砂浜化で、数年前からエスプラネードに沿って大量の砂を敷き詰めています。潮汐と波の影響でこの砂が干潟に広がりつつあり、干潟の環境に変化が生じたことが原因と考えられます。この変化は、干潟で採餌するシギチドリの活動にも影響が出始めているため、砂浜化の縮小を環境団体や有志が提案していますが、その深刻さが理解されていません。

その他のシオマネキについては、その2で紹介しましょう。

cairnsfg

ケアンズの自然観察家。マングローブを徹底的に調べ、世界で最も希少とされるIUCN絶滅危惧種のヘインズオレンジマングローブがオーストラリアに自生していることを発見。2018年には新品種のダンガラオレンジマングローブの発見を発表。世界遺産Wet Tropicsカソワリアワード2017年ファイナリスト。日本野鳥の会会員。BirdLife Northern Queenslandケアンズ地区コーディネーター。

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